あなたのパートナーから「生理がきた」と言われたとき、どんな行動をしていますか。私は大学一年生のとき、「大丈夫だよ」としか言えませんでした。異性に対する性知識のなさは、生きやすい社会の妨げになるのではないか。そんな体験が卒業研究に「生理」を選んだ理由になりました。この夏、新潟県十日町市を訪れました。地域全体の性教育をしているたかき医院の仲栄美子先生にお話を聞くためです。生理を取り巻く『性教育』『性知識』そして『命』を知るための話。ぜひ、ご覧ください。
初めまして!
十日町市移住コンシェルジュでインターンをしています、岡崎航と言います!
岡山から来て、現在長岡造形大学に通っている大学四年生です。
今回のインターンでは、イベントの企画・運営・スライドのお手伝いや十日町のさまざまな方との交流。本記事を書くにあたってのレクチャーや企画、取材など、大学では学べないことに日々ウキウキした反面、情報量の多さに頭がパンクする幸せな悩みを抱えていました。
本記事では、卒業研究で現在取り上げている「生理」について十日町市にある「たかき医院・仲栄美子先生」に取材した様子をまとめています。
学校での性教育って閉鎖的でオープンではありません。
でも学校はもちろん、家族での性教育が身近にあると、なんだか安心できませんか?
これからも子供やパートナーを大切にしたいと思っているあなたなら、
オープンな性教育を学校で行う仲先生の活動を知ることで、大切なパートナーや子供を助けることができるかもしれません。
なぜ、卒業研究で「生理」!?
きっかけは、初めてできた彼女が言った「生理がきた」という一言。
当時大学一年生だった私は、生理という単語は知っていても中身をまるで知らず、とりあえず「大丈夫だよ」と言うしかできませんでした。
ネットで調べ、友達に聞き、「生理」に関する情報を仕入れていく中で、自分の性知識のなさに衝撃を受けることになります。
「大学一年生なのに!??恥ずい!」
男性の生理に対する理解を上げたい。パートナー間や家族間で生理の話ができるきっかけを作りたい。この原体験があって、生理をテーマにして研究に励んでいます。
産婦人科医にインタビューできる!
十日町市移住コンシェルジュでのインターン初日に、自己紹介で「生理」の研究をしていると伝えました。すると、「たかき医院に取材してみたらいいんじゃない?」と提案してくださいました。
たかき医院さんは十日町で有名な産婦人科で、十日町人の多くはたかき医院にお世話になっていると聞きました。
たかき医院の仲栄美子先生は十日町に限らず、様々な地域の小中高校で性教育を行う先生だそうです。
そんな仲先生とお知り合いだという方が移住コンシェルジュの中に居て、アポを取ってくださり、とんとん拍子でインタビューできることになりました。
そして早速インタビューの準備に取り掛かりました。
産婦人科の先生にお話を聞けるなんて、、といきなり舞い込んだ大チャンスに聞きたいことはたくさんあります。たくさんの聞きたいことの中から結果、7つの質問にまとめました。
①どんな性教育を小中学校でしているの?
②性教育を行う時に注意していること
③子供、保護者にはどんな反応?
④今まで辛かった反応、エピソード
⑤生理は男女で学ぶべき?
⑥婦人科に学生が生理の相談に来る?
⑦これからの性教育はどうなっていってほしい?
そして今回のインタビューのテーマを「未来への性教育の小さな一歩」としました。
ゴールには1.小中学校でどんな性教育をしているのかを知る2.今後の性教育がどうなってほしいかを考えるきっかけの日に!という二つを設定しました。
7つの質問やテーマは限られた1時間の取材で話を逸らさないために模造紙にまとめ、ここに議事録を取っていくことにしました。
産婦人科の先生に生理と性教育に関する7の質問
取材当日。
楽しみにしていた仲先生への取材が始まりました。ここからは質問ごとに仲先生との対談形式でお送りします。
質問1:どんな性教育を小中学校でしているの?
仲)「小学校では、まず自分と他人を大事にすることが基本です。思春期になって、これから変わっていくからだの変化がなんで重要かを伝えています。
中学校はもうちょっと踏み込みますね。自分も他人も大事にすることは基本なので、あえてそこを口にすることはないです。結構直球に具体的に妊娠、出産、中絶、避妊、性感染症、性犯罪、性的マイノリティとかまでも話しちゃいます。
高校では、中学校での直球の内容に、デートDVや虐待とか。人権の話までします。そこを言っていかないと全然話にならないです。」
岡)「性教育の始まりとして性的マイノリティの話は重要なんですね。どんどん性の多様性が深まっている中でセンシティブな内容ですし、これから話すことがどんどん増えていくのかなと想像しました。」
仲)「私はこの辺(十日町辺り)でしか性教育をしてないですけど、県外でやっている先生の話を聞くと、『講演をする前にスライドを一回チェックさせてください』と言われて、内容をちょっと狭められちゃうことがあるんです。
性教育は伝えたいことが多すぎるけど、時間が少ないから自分の言葉で足りないところは、視覚に訴えて見せて終わっちゃうこともあります。
見るのが得意な人、聞くのが得意な人、心で感じるのが得意な人。どんな人にも対応できるようにスライドを使っています。」
岡)「どうしても授業となると50分ほどで時間が足りなくなっていることが印象的でした。年に何回もあるわけではない性教育の時間で何を伝えるべきか、どうやったらもっと有益なものになるかは時代に合わせてどんどん変化しそうですね。」
質問2:性教育を行う時に注意していることは何?
仲)「人前で何かを話すときに性教育だけでなく絶対思っていることが、聞いてる人が1人でも不快な気持ちにならないように心がけています。」
岡)「具体的にはどういった対策をしているんですか?」
仲)「相手を否定しないのと、なるべく私が話したことで(生徒が)自分で考えるようにしてます。
例えばよ、『わたるくんと彼女が付き合っていました。お互い付き合ってるからって避妊しないでセックスしました。そしたら彼女が妊娠しました。彼女はわたるくんとは元々結婚するつもりがないからって中絶しました。』
『私(仲先生)はさー、結婚する気がなくて産む気がないんだったらちゃんと避妊しろって思うんだよね』ということは言わない。それって私の気持ちの押し付けだから。
避妊という言葉が出てきたけど、避妊って本来どういうものなんですかねと事実を述べて、次に行っちゃう。
その時に考えることって人それぞれじゃないですか。例えば女の子の方を責める人がいるかもしれないし、おい男何やってんだと思う人がいるかもしれない。生徒に考えるきっかけを与えて終わりにしています。」
岡)「ある種相手に委ねるんですね。必要なのは一つの答えではなく、生徒一人一人の答えと考える過程なんだなと思うことができました。ちなみに僕は、わたるくんと彼女両方に非があると思いました。あとはちゃんと性教育をしてこなかった教育者も悪いなと思いますね。」
質問3:子供、保護者にはどんな反応?
仲)「子供はね、びっくりとか学校でやってたけどそこまで詳しくは知らなかったという声をもらうかな。恥ずかしいという反応や感想は小中高校通して一回ももらったことないです。聞く前は恥ずかしいと思っていたけど、聞き終わったらそういう気持ちは全然なくなった。もっと自分を大事にしようと思った。もっと他人にはこうしてあげようと思った。将来役立てようと思った。自分のためになったという感想ももらいます。」
岡)「恥ずかしいという声がないのは衝撃です。。今の子達すごいですね。僕だったら彼女や兄弟がいないと関係ないなと思ってしまうんですが、実は自分にも性教育って関係していると知れるだけでもだいぶ大きいと思います。」
仲)「えーとか思ったら『えー』って言ってもいいし、何か聞きたいことがあったらその場で聞いてもいいし。そこは比較的フランクにやってます。
男子同士の『ういー、お前ー』とか全然それでもよくて(笑)こっちからするとこの内容はヒットしたんだなとかえって反応があると、こういう内容すごい興味があるんだなとかがわかるので面白いです。」
岡)「からかいとかはダメなのかなと思ってました。反応があるだけで嬉しいというのは教育する立場ならではの意見だなと思いました。生徒側からするとその反応は恥ずかしさを助長する反応でした。」
「保護者にはどんな反応をされますか?」
仲)「保護者はね、感想ってなかなかもらいにくくて、子供の性教育の授業では基本来ていいですよとオープンにしているけど、平日だからあまり来れなかったりするんです。
ただ親御さんからの質問には、子供に対しては性教育はしたいと思ってるけど、何から話せばいいかとか、いつからしていいのかが良いかがわからないという質問はよく聞くので全然何でもいいんですよって。ただあんまりかしこまっちゃって大人になってから話そうとしてもできないから、生まれた瞬間から性教育って始まってるので『なるべく早いうちからいろんな話をしてあげてください。何かのきっかけがあったらどんどん話してあげてください』と伝えます。」
岡)「生まれた瞬間から性教育は始まっていることに驚きです。最近は大人が学ぶ性教育の書籍も増えてきていますね。」
質問4:今まで辛かった反応、エピソード
仲)「あんまりなかったんですけど、そうよねと思ったのは、高校で性感染症のリアルな写真を見せたことがあって。そしたら性器がまるで映ってるのはやめてくださいって(笑)。私は医療従事者だから普通に見てるからね。次の年度からはうまくぼかしてみせるようにしてます。それが一番覚えてるかな。あとはこういう言い方すると誰が傷つく人がいたかなーとかは思い返します。」
岡)「トラウマになる方がいらっしゃそうですね。。びっくりです。」
後日実際に見たんですがそれはかなりの衝撃で、想像より何倍も痛そうでした。いきなり授業であの写真が出てきたらさすがに安全に気をつけますね。見てから2週間ほど経ちますがまだ頭に焼き付いてます(笑)
質問5:男女で生理は学ぶべき?
仲)「絶対そうだと思います。生理というものが来ることは命ができることにつながってくるでしょ。生理が来ないと女性は妊娠しないから。妊娠するってことは男女どちらにも関係することじゃないですか。であれば男の子でも生理を学ぶべきだし、女の子でも射精を学ぶべき。」
岡)「SNSで生理を知らない男子を女子が叩いたり、逆に男子が女子を叩いたりと男女の対立があって、それが男女で学ぶことの障害になってるのかなとも思ってて」
仲)「知らないからってその人を非難する話ではないというか。その方が知らないのが悪いのではなくて、知らない状況にさせてしまっていた大人が悪いと思っています。お互いを大事にできるということにつながるんじゃないでしょうかね。」
質問6:婦人科に学生が生理の相談に来る?
仲)「くるくるくるくる!(笑)私が講演で毎回、月経痛っていうのはないのが普通です。痛いって思うこと自体が病院へ相談に行く一つのお知らせなんです。そう言うとみんな来てくれるわけ。」
岡)「隠れ我慢っていう言葉があるくらい、我慢して救急車で運ばれるまで自分で行けないっていうのは相当ハードルが高いですよね。」
仲)「そうそうそう。病院には生理が始まって、すぐくらいの子から来ますよ。小学生が保護者と一緒におりものが早くに始まって心配です。いい年になっても生理が来ないんですけど、逆に早く来すぎちゃって大丈夫ですか?とか。たくさん来ますよ。中学生になると自分1人で来ることもあるし、お母さんと来ることももちろんある。
摂食障害で無月経になった子が、実は親子の関係があまり良くないところから来てることもある。親子で来ていて、お母さんが口出ししすぎて子供が喋れないこともありますね。」
岡)「パートナーと男女で来ることもあるんですか?」
仲)「妊娠の心配でたくさん来ますよ。生理でパートナーが連れてくるってことはあまりないですけど。でも本人(女性自身)が生理なんだかよくわからないって人も来るの。『こないだ生理いつきましたか?』って聞くと彼氏さんが手帳を広げて何月何日だっていうカップルもいるから全然パートナーと来てもいいと思いますよ。」
岡)「男が産婦人科行っていいのかなとか分からないことだらけで不安でしたが、全然行っていいことが分かって安心しました。でも産婦人科の診察は分からないことだらけで正直、想像がしづらいです。もし不透明な部分がなくなってくると診察に行ける人が増えるかもしれないですね。」
質問7:これからの性教育どうなっていってほしい?
仲)「最近の小中高校生って性教育を聞く機会が増えてきたと思うんです。頑張っている先生も多いので。
なので、親御さん世代にどうアタックしていくかが問題なんじゃないかな。性教育を受けないできてしまった人たちをどう取り込んでいけるかっていうのがあると思います。」
岡)「それは性教育に対する保護者の実際の反応があまり良くないことが原因なんですか?」
仲)「私たち世代は、生理中にお腹が痛いことなんて気合いで我慢しろと言われてきた世代なの。そのあたりの考え方のギャップというか。
この間も高校の同級生。この人は男性なんだけど、『娘が半年生理が来てないんだけどどうすればいい?』って聞かれたの。半年生理が来ないのは即病院行ったほうがいいのに、全然その辺の知識がない。一年でも半年でも生理が来ないのは楽でいいねとほったかされちゃったりとか。」
岡)「性に関する常識がどんどん変わっていってると思うんですけど、その辺を合していくっていう。大変な作業になりそうですね。。」
インタビューを通して思ったこと
-自分が性教育を受けていた頃に仲先生の様に生徒に寄り添い、性教育が自分たちにとっていかに重要かを教えてくれる先生がいて欲しかった
仲先生は性に敏感な世代の恥ずかしい・驚きという感情を全て受け止めて、隠し事なく大胆にお話しされる方だったので、もし自分がこの性教育を受けていたらもっと真剣に性教育を聞いて、考えていたんだろうなと思いました。
自分が小中高生の時に性教育はありましたが、エロ(当時は性教育をエロだと思っていました)に対して耐性がなかった僕にとっては恥ずかしすぎる時間で早く終わってほしいと思うばかりでした。そして当時の記憶から内容に関するものは全て抜けています。
性教育は何もエロな話だけでなく、生死に関わることや性別の多様さ大切さについてもたくさん教えてくれます。それを改めて感じた時間でした。
未来への性教育を考えてみる
インタビューの最後の質問では、「これからの性教育はどうなっていってほしい?」という質問をしました。今回のインタビューのテーマにも置いた話題です。
親御さんにどうアタックしていくかが課題だねと仲先生は答えてくださいました。この回答には僕は大賛成です。これからの性教育は子どもだけでなく大人の考え方もどんどんアップデートしていかなければなりません。
大人の皆さん、少し考えてみてください。
・職場で部下に生理で休みたいと言われた時どう反応すればいいでしょうか?
・飲み会でセクハラされてる人をどうやって助けたらいいでしょうか?
・子供にセックスって何?と聞かれた時どうやって教えればいいでしょうか?
これからはどんな人にも性のことを考えなければならない場面がやってきそうです。
しかし、性のことをペラペラと人前で喋るべきというわけではなく、いざという時に備えるべき知識だと思っているので少しだけ知っておいてほしいと思っています。
僕は卒業研究で「生理」を取り上げて、正しい生理の知識を伝えたり、生理のことを話すきっかけを与えたいと思って活動をしています。
そして僕は「生理」のことで起業します。
調べれば調べるほど、話を聞けば聞くほど苦しんでいる人はとても多く、知らない人が多く、勘違いが多く、話せない人が多い現状が分かりました。男女共にですが。
そんな人を救いたいと強く思うようになったことがきっかけです。
これから頑張って、いいもの・いい社会を作りたいですね。
最後に、みなさまへ
「生理」ってGoogleで調べてみませんか?
きっと知らないことや勘違いしてたことが山ほど出てくるはずです。僕も驚きの連続でした。
「生理」を知ることは恥ずかしいことじゃないですよ。
「タブー語源 生理」とか調べてみるとびっくりだと思います。
では、また!
【アンケート】
https://forms.gle/hKyQyqbeKj67Ptg17
↑記事を読んで思ったこと/感じたことを思いのままに書いて欲しいです
協力:十日町移住コンシェルジュ、たかき医院(https://takakiiin.com/)
執筆:岡崎航